家に金庫がある人はお金持ち?

祖父の家には金庫があった。子供の頃祖父の家に遊びに行くと、必ず従姉妹と一緒になってその金庫を開けようとしたものだ。その金庫は昔ながらのダイヤル式の重々しい感じのものだった。私たちは、ダイヤルに耳を当てて廻しながら番号を当てる、テレビでよくみるようなシーンを真似したりしていたが、どんなにゆっくりと何度となく廻しても番号を当てることはできなかった。当たり前だけど、祖父は私達に番号を教えてくれることはなかったし、祖母ですらその金庫に何が入っているのかを知らされていなかったので、その金庫に何が入っているのかずっと謎だった。

そんな祖父がつい先日亡くなった。親族が集まり、財産分与のためにあの金庫を開けることになった。私は一体何が入っているのだろうと、不謹慎ながらもワクワクした気持ちを押さえきれずに両親の後をくっついていった。祖父はずっとサラリーマンだったので、そんなにお金持ちだったとは思えないけれど、あんなに重々しい金庫の鍵があるくらいなんだから、きっとそれなりにすごい何かが入っているんだろう、と誰も口にはしなかったけれど、心の中ではみんなそう思っていたに違いない。親族一同、ものものしい雰囲気の中で、祖母がメモを見ながら金庫のダイヤルをゆっくりと回し、そしてドアをゆっくりと開けた。

財産分与に直接関係するわけじゃないというのに、私はその瞬間、生唾をごくりと飲んだ。祖母が中から取り出したのは、封筒だった。通帳か?株券か?ゆっくりと封筒から中身を取り出した祖母は、ソレを見て「あぁ~…」と肩を落としてうなだれてしまった。親戚の一人がソレを見て、やはり「あぁ~…」と肩を落としてうなだれた。親族の間でソレが回されるたびに、次々と皆一様に肩を落としていく。私の両親もソレを見た瞬間、崩れ落ちた。両親の肩越しに覗いてみたソレは…若かりし頃の吉永小百合、その人の写真であった。

「あぁ~…」